2013年5月9日木曜日

おすすめの仏仏辞典



私がもし、仏仏辞典をおすすめするとしたら、まちがいなく、Dictionnaire du français(LE ROBERT et CLE INTERNATIONAL) をおすすめします。

おすすめの仏仏辞典(Dictionnaire du français)

出会い


東京駅のオアゾに入っている丸善の洋書売り場で、この仏仏辞典に一目ぼれして以来、仏仏辞典は、これ以外はまったく使わなくなってしまいました。

たしか、その当時、8千円くらいして、ちょっと高かったので、書棚の前で、ずいぶん長いこと、迷った思い出があります。

それだけ迷ったのは、値段もさることながら、すでにその時点で、仏仏辞典は何冊か持っていて、どれも本棚で眠ったままでしたので、また無駄になるのではないか、と恐れたのです。

しかし、はしがきのフランス語を丹念に読み、裏表紙の説明もすべて読み、いくつかの単語を実際に調べて、その上で、明らかに、これまでの仏仏辞典とはちがう、という手ごたえがあったので、購入を決断したのでした。

以来、それまで持っていた仏仏辞典は、いっさい使わなくなってしまいました。

では、この仏仏辞典は、他のと、何がそんなにちがったのでしょうか?



フランス語を外国として学ぶ学習者のための仏仏辞典



それは、まず、この仏仏辞典が、フランス語を外国語として学ぶ学習者のために作られた辞書であるという点に、最大の特徴があります。

この最大の特徴は、はしがきの冒頭でも謳われていますし、裏表紙にも、「この辞書は、フランス語を母国語としないあなたのために特別に作られたものなのですよ」という呼びかけがあって、心をくすぐられます。

Le français nest pas votre langue maternelle.
Ce dictionnaire vous est spécialement desitiné.

つまり、フランス人が日常用いるための、ネイティブ向けの仏仏辞典ではなく、フランス語を学ぶ外国人が用いるための、学習者用の仏仏辞典である、ということです。

これは、仏仏辞典を選ぶ際においては、とても重要な視点です。

たとえば、私の最近の経験でも、ふだん洋書を読むのに愛用しているキンドル(Kindle)ですが、もともとデフォルトで入っている The New Oxford American Dictionary(NOAD)というネイティブ向けの英英辞典は、どうも意味がピンとこず、使いこなせませんでした。

キンドルは、もともとアメリカで普及し、アメリカ人が使っていたものなので、標準装備されている辞書も、とうぜんネイティブ向けの辞書だったのです。

ところが、Merriam-Webster's Advanced Learner's Dictionary という学習者向けの英英辞典に変更してからは、すんなり理解できるようになりました。

このあたりの詳細は、こちらの記事をどうぞ。

いずれにせよ、Dictionnaire du français が使いやすいのは、根本的には、それが、フランス語学習者向けに特化された仏仏辞典だからです。


説明や例文に使われているフランス語がやさしい


私が、この仏仏辞典を愛用する理由はいくつかありますが、大きな理由は、次の2点です。

ひとつめの理由は、説明や例文に用いられているフランス語がとてもシンプルで分かりやすい、という点です。

そもそも、私がそれまでの仏仏辞典を単なる書棚の飾りにしてきたもっとも大きな原因は、説明や例文に用いられている単語の意味が分からなかったり、構文が複雑で文意が取れなかったりすることでした。

いくら仏仏辞典を使った方が力がつく、と思ってがんばって仏仏辞典を使おうとしても、やはり、説明や例文じたいが難しいと、どうしてもいつのまにか使わなくなってしまいます。

その点、この仏仏辞典で使われるフランス語は、単語のレベルも構文も、非常に平易で、そこで使われているフランス語が分からないということが、めったにありません。

まれにあったとしても、それは知っておくべき重要単語なので、覚えようという気にさせられます。

使われているフランス語が平易であること、それが、この仏仏辞典を私が長年愛用しているひとつめの理由です。


単語の本質がつかみやすい


ふたつめの理由は、その単語の本質がつかみやすい、という点です。

どういうことかというと、仏和辞典に見られるような、その単語に相当する語句による単なる置き換えのような説明ではない、ということです。

たとえば、

「amour」を調べたとすると、ごく普通の仏和辞典なら、「愛、愛情、恋心」という単なる置き換えで終わります。

ところが、仏仏辞典だと、「誰かに対する強い親しみの感情や、誰かに性的に惹きつけられること」というように、その単語がもつ基本的な意味を定義にまでさかのぼって説明してくれるのです。

そのため、その単語の本質が、頭にすっと入りやすいのです。

おそらく、この感覚は、ロングマンやオックスフォードの、ネイティブ向けの英英ではなく、学習者用の英英を使ったことのある方なら、すぐに共感していただけるものではないかと思います。

さらに、Dictionnaire du français の場合は、そういった単語の語義の説明だけでなく、例文もとてもよいのです。

どういうことかというと、まず、例文は省略されたりせず、一文がまるごと書かれています。

しかも、その例文は、平易であるだけでなく、その単語の本質を一発ですとんと納得させてくれる、本当にいい例文が挙げられているのです。

語義の説明を読んだあとに、例文を読むと、なるほど、とつい大きくうなずいてしまうほどです。



学習者向けの仏仏辞典を用いる本来的な意味



ところで、先ほどひとつめに挙げた、説明や例文に用いられているフランス語がやさしい、という理由は、私にとっては、実は、仏仏辞典を使うのを阻害する要因にはならない、という消極的な意味しかもっていません。

それだけの理由なら、わざわざフランス語で書かれた仏仏辞典を用いたりせず、日本語で書かれた仏和辞典を用いればすむことです。

では、なぜそもそも、わざわざ仏仏辞典を使うかというと、ひとつには、フランス語脳を壊さずに済む、という点があります。

フランス語のペーパーバックを読んでいて、フランス語をフランス語のまま理解するというフランス語脳の状態になっているのに、そこで、仏和辞典を引いて、日本語が入ってしまうと、せっかく出来上がったフランス語脳状態が壊れてしまう、という感覚があります。

これが、すごく惜しいのです。

その点、仏仏辞典だと、ペーパーバックと行ったり来たりしても、フランス語脳状態は、いささかも損なわれません。むしろ、加速される感じすらします。

しかし、やはり、私が、Dictionnaire du français をずっと使い続ける最大の理由は、仏英辞典では味わえない、その単語のもつ本質的な意味をとらえやすい、という先ほどの2つめの点にあると思います。